2026/5/27
第3部ーAIと人手不足でサービスが薄くなる時代、信頼で選ばれ、繁栄し続ける企業の条件
前回に引き続き、「AIと人手不足でサービスが薄くなる時代、信頼で選ばれ、繁栄し続ける企業の条件」 第3部を書いていこうと思います。
前回の記事では、問い合わせ窓口の縮小や、解約しづらい導線、不具合への実質的な対応を避けるような体制など、
正当な不満や困りごとを抱えた消費者が、声を届ける前に疲れ果て、泣き寝入りさせられてしまう社会の変化について見てきました。
では、なぜ日本のサービスは、ここまで人の気配や温度を失いつつあるのでしょうか。
その背景には、単に「現場の人が不親切になった」というだけでは片づけられない、
働く人の不安定さ、正社員に集中する過密な負担、そして社会の高度化に伴って複雑になり続ける業務があります。
生活の安心を持ちにくいまま働く人。
息をつく間もなく判断と対応を求められる人。
そして、少ない人数で、以前よりはるかに複雑な説明と確認を担わされる現場。
そうした状況の中で、
本来は人と人との間に生まれるはずの配慮や責任感が、少しずつ削られているのではないか。
第3部では、2026年の日本でサービスが「温度」を失いつつある理由を、
雇用の不安定化、正社員の過密労働、業務の複雑化と人手不足という3つの観点から整理していきます。
もくじ
- 2026年の日本で、なぜ日本のサービスは「温度」を失いつつあるのか?
4. 2026年の日本で、なぜ日本のサービスは「温度」を失いつつあるのか?
なぜ、このような状態になってしまったのでしょうか?
ここでは、その一因を3つの観点から整理してみました。
- 非正規雇用が広がった事による不安の広がりと品質低下
- 正社員への過度な期待と過密労働からくるメンタル不調
- リテラシーの向上に伴う業務の複雑化
4-1.雇用の不安定化が、仕事への安心と責任感を奪っていく
例えば、20世紀末に比べて、派遣法などの法案の、たび重なる改定により、2025年度において、非正規労働者の割合は、36.5%%にまで登っています。

引用:労働力調査(基本集計)2025年(令和7年)6月分 P2, 表2 雇用形態別雇用者
非正規雇用が広がった主な理由は、
バブル崩壊後の日本経済において、景気の不安定化と低成長(と感じた経営者)や、競争激化が、固定費である正社員の雇用を恐れたためです。
また、2000年代以降は、「資本効率・株主価値」を強く意識する流れが強まり、
コスト最適化(人件費含む)を後押しした面もあります。
その他には、上記を受けて、
- 派遣法などの規制緩和で「使える非正規」の範囲が広がった
- 産業構造の変化(サービス化)で非正規が“噛み合いやすい職が増えた”
- 人手不足により正社員が確保できないため
- フルタイム勤務を希望しない、主婦や自分時間を優先する人々の増加のため
といった背景があります。
非正規雇用で働く人たち(派遣や最近では業務委託契約も含む)は、たいてい契約期間は3ヶ月ごとの更新を繰り返して働いています。
契約更新がされなくなったら、次の勤務先を1ヶ月ほどの期間で探さなければならない方が多いと思います。
また、多くの会社で実際の作業や、窓口対応、接客対応などは、非正規雇用の方が担っています。
自分の長期的な収入プランが確立されていない状態で、精神的に落ち着いて、最高品質の仕事をしていくーこれってかなり精神的に負担がかかった状態で仕事をしなければならない状態です。
生存が脅かされていると感じやすい仕組みの中で、最高品質の仕事を行うのは、とても精神的に抵抗があることだと思います。
さらに、非正規労働者の場合には、個人の能力とは関係のない理由(主に会社都合、予算が取れなかった、経営方針の変更など)で、ある日突然、解雇(契約解除や不更新)されるといったことが起きます。
経営者の立場から見れば、そのような対応は法的にも認められており、リスクを理解したうえで非正規雇用を選んでいる人もいる、という見方もあるでしょう。
また、会社を守るためにはやむを得ない判断だと考えているケースもあると思います。
しかし、それは経営者や投資家と同様に、生活があり、人生がある「人」への対応として、果たして望ましいあり方なのでしょうか。
4-2.正社員にも余白はない。過度な期待と過密労働で削られる心
そして、正社員として就職したとしても、日本古来からの滅私奉公的な働き方のみが要求され、滅私奉公と引き換えに、人としての温情による終身雇用やその他、労働者が受け取れていた、社宅の利用、手厚い退職金、年功的な賃金上昇などのベネフィットは提供されなくなっています。
また、技術の進歩により、オンライン会議やメール、Asana、Slackなどのビジネスチャットツールを用いた瞬時の意思伝達など、20世紀末までには、会うための移動時間やメッセージが届くまでの郵便時間など余白的な時間だったものが全て無くなり、仕事の時間は濃密さを増してきました。
私がお手伝いさせていただいた企業の管理職の方々も、分単位、もしかしたら感覚的には秒単位で、次々にオンライン会議に参加されていました。
一つの会議が終了したら、リンク先を切り替えて、次の瞬間には、他の会議に参加しているといった状態です。
スケジュールは朝から夜まで、会議や作業時間が隙間なく詰め込まれており、お昼休みの間や、時には朝起きてから勤務時間開始の間でさえ、何かしらの確認作業などが入っているような状態でした。
まさに、息つくまもなく仕事をしているといった感じ。
毎日この濃度で8時間集中していたら、体は動かしていなかったとしても、頭脳労働としての疲労は計り知れない状態になっています。
4-3.業務は複雑になるのに、人は足りない
そして、昭和や平成の時代には、気にされていなかった様々な事象への解像度の高度化に伴い、配慮したり、新しく制定された法律に従い、業務が繊細に、細かく、複雑になってきました。
例えばこれは、規約の複雑化、高度化、情報量の増加、本人確認の徹底、セキュリティやコンプライアンス対応などです。
これらを行うことにより、以前より手続きが増え、現場は「説明と確認」に時間を取られて疲弊しやさの要因となっています。
また、人手不足の側面では、企業が求める若手(20〜30代)は、そもそも、少子化の影響下にあり、採用自体が難しくなってきています。
そして、この年代は、中高年以上の世代と比べて、より、グローバルに、人道主義の価値観が高い世代です。
それゆえ、2000年代はじめ頃まで通用していた、仕事、所属している会社中心主義での価値観で、仕事をするという意識が薄くなっています。
そして両方の働き方に共通する悩みどころとして、物価高に追いついていない給与額、企業側が最も必要としている若手の人材不足からくる給与に見合わない多忙さ業務の高度化という現実もあります。
そんな状況の中で、特に若い人を中心に、仕事は割り切って淡々と行うもの。
受け取れる給与の範囲内の責任と貢献だけを行う。
飲み会を打診されたら、その分の時給を請求したい。
といった、考えが広がっています。
そうなると、何が起こるでしょうか?
製品やサービスの劣化です。
そして、責任を持たない体制の創出。
人として尊重されていない、と感じた心の怒りは、自分よりも弱い立場、はけ口にしても責任を問われない方法や相手へと向かいます。
それが、3.で紹介したような消費者を泣き寝入りさせる体制などに現れてきてしまうと思うのです。
けれど、こんな風に考えるのも当然だと思うのです。
誰でも、ただ、自分を都合よく利用するとわかっている人(会社)に、心からの協力や貢献を行うことは心理的に抵抗感を持つのが自然な反応です。
4-4.人を大切にしない社会は、サービスからも温度を奪う
その結果、心も物質面でも満たされない状態で仕事をすることになるので、それが仕事の質に現れてきます。
それが、マニュアル対応を通り越したさらに機械的な温度のない対応。
笑顔のないロボットのような冷たい対応。
少しでも自分たちの手や精神に負担がかかると、彼らが感じた人は、誰でもクレーマー扱い。
悲しいことに、まるで、お客様は油断をすると自分たちを攻撃してくる存在であると思っているような印象さえ感じることがあります。
その結果、仕事をする人たち、上司、そして、それを利用する消費者側にまで変な緊張感が漂う中で相対しているという状況になっています。
これはつまり、利益追求が先鋭化し、徹底的に効率を上げ、削ってはいけないところまでメスを入れている社会では、結局、人にとって生きづらい社会になっている、ということだと思うのです。
次回、じゃあどうすればいい?「信頼で売上を伸ばす企業」の設計について言語化していきます。
天野 木蓮
大学院、大手製薬会社およびバイオ企業で20年以上,研究職に従事した科学者。
新薬開発における品質試験、国内及びFDAへの申請資料作成、GLP/GMP対応などに関わってきました。
現在は、これらの経験を活かしたWeb制作とライティング(企業サイト設計/導線設計/SEO・AIに強い記事制作)、および科学コンサルタントとして活動中。
母として家庭を支えつつ、理系思考を活かした論理的な視点から、「地球と時代が本当に求めている智慧」をテーマに、自然・人・技術の調和を大切にしながら、持続可能な豊かな社会の実現を目指す情報発信を続けています。